社長ブログ
株式会社アイネット
『マネーボール』という映画をご存知でしょうか。7年くらい前にブラッド・ピットが出演していたアメリカのメジャーリーグのお話です。ざっくり説明すると、「2000年代初頭のメジャーリーグは高い年棒を出せるチームが良い選手を集めることで勝つ時代になったが、そんな中、アスレチックスというチームが統計学による分析で年棒が低いにも関わらず勝率を上げた。そこに至る葛藤や経緯を描いた映画」です。
この映画が公開された当時、この映画を観て私はものすごく、なんというかぐっときました。それはなぜか。当時、私は、アイネットを引き継いで、それまでは派遣一辺倒になっていた会社から何とか少しずつ請負い開発ができる会社へと変えようと奮闘していました。それには人材集めがポイントになります。新卒採用、中途採用など苦戦する中で、何人か採用した技術者が育ってくると同時に、今度は人材の定着の問題が出てきました。
たとえばこんなことがありました。
ある社員が辞めてしばらくしてから、その会社のトップのかたが「話がある」と訪ねてきました。一瞬なんのことが分からなかったのですが、聞いてみるとこういうことでした。その会社の管理職の方がうちの技術者と一緒に仕事をしている中で、「アイネットを辞めてうちに入らないか」と持ち掛けた結果、弊社の技術者は退職してそちらの会社に移ったということです。トップのかたは、自社の社員がいわゆる「引き抜き」のような行為をしてしまったことを謝罪に来られたのです。
こういうことは仕事をしていれば何度もあります。
そんなことに悩まされていた頃にちょうど『マネーボール』という映画が上映されました。弱小チームが頑張って技術者を育てても、ちょうど育ってきたころに金のあるチームから引き抜かれてしまう。そこに自社の姿を重ねていました。野球ならまだ移籍金がもらえるだろうけど、理由を言わず辞めていき、転職先がパートナー関係のある大手メーカーだった時の無力さ。
一方で会社を長く経営していれば、県内の同業他社の社長さんとは互いに顔見知りになってしまいますので、そういう情報はすぐ出回ったりもします。いわゆる「仁義にもとる行為」というのはすぐに出回るということです。逆に自分がそういうことをしてしまわないように、とも心に誓いました。
とはいえ、技術者がキャリアパスのために転職するのを止めるものではありません。本人の理想の働き方が弊社の働き方と食い違ったり、成長して弊社の器を超えたりして、転職するのは喜んで送ってあげたいと思っています。なので、私個人が「経営者として」堅く決めていることだけ書くと、
1、業務で関わりのある方に声をかけて自社の社員にするようなことはしない。
2、できるだけ自社の風土と馴染めるような人材の採用・育成に努める。
3、曖昧な形で「人材募集」を謳わない。
ぐらいでしょうか。
もちろんこれは私個人の経営の上での稔侍であり、他の会社・技術者に強要するものではありませんし、私の考え方が古くなって新しい時代の人材流動が主流になることはおおいに考えられます。あるいは、うちの会社の業態が変化して、グローバルに最適な人材にアクセスするようになるかもしれません。
なんでこういうことを書いたかというと、先日、弊社でお客様と打ち合わせをしている中で「私は勉強会で登壇して『技術者を募集してます!』っていうのは言わないようにしているんです」という話をしたので、どうしてそう考えているかをちょっとまとめておこうと思いました。
でもまあ、引き抜かれて死ぬほどくやしいか、と訊かれたら、実際には「うちが見出して育てた技術者がよそから所望される人材になったのだなあ。良かったなあ」というのも、なくはないです。技術者って求められてナンボですからね。あとは、自社が働く人にとって居たいと思える会社になるよう努力するのみです。